ちょっと前の話になりますが、お気に入りの銭湯でくつろいでいたら、大学生くらいの男性が右のアゴの後を親指でギューっと押しているのを見ました。
「あ、顎関節症だな!」とピンときました。
湯船に浸かって、体を温めながらそのツボを押しているとアゴの痛みが楽になるのでしょうね。
フィギュアスケートの羽生結弦選手に似た、首が長くてアゴのほっそりした人でした。
歯が大きいわりにアゴが細いプリンス・プリンセス系の顔立ちの人は、どうしても顎関節症になるリスクを抱えていますよね。
歯列矯正をすることで、びっくりするほど良くなった人に会ったこともありますが、残念ながらそうでない人もいるようです。
基本的には体の使い方に左右のアンバランス傾向が強い人がなりやすい。
どうしても筋肉の付き方に左右差が出てしまいますものね。
骨盤の高さが左右で違ってきてしまい、それに伴い肩のラインが斜めになり、目線だけを水平にしようとして首も曲げてしまう。
それが常態化して顎も左右にズレが生じてしまう。
顎関節症で鍼灸に来られる方の多くは、股関節の可動域が狭かったり、左右差が大きかったりします。
どうしてもよく使う(重心がかかる)足のほうに負荷がかかるので、筋肉は太くなり、股関節の可動域は狭くなるのですね。
ですから顎関節症の方は、アゴの関節だけに問題があるのではなく、体全体の問題がアゴに出ているということなのです。
正直言って、その治療は時間がかかります。
なにしろ生活習慣病・自覚のない癖といっても差支えがないものを改善するには、本人の自覚と改善するという意気込みがないと根本解決には至りません。 運動療法が良いのはもちろんですが、実際のところみなさん仕事・家事・子育て・介護などなどで忙しくされていて、たとえ一日30分のヨガをすることすらなかなか出来ないのが現状ではないでしょうか?
そこで私はお灸をお勧めします。
10分~20分の空き時間で出来ますし、その効果は“劇的”とまではいかなくとも、継続することで必ず変化は感じられるはずです。
あなたの顎関節症のタイプは?
では、今回は顎関節症に効果があるツボを紹介したいと思います。
タイプによって使い分けてみてください。
ではまず、口を開いてみてください。 どこに痛みを感じますか?
アゴを引いてみてください、耳たぶの下あたりに痛みや違和感はありますか?
下を向いた時に後頭部と頸の付け根が伸びなかったり痛みを感じたりしますか?
上を見上げた時に喉(前面)の筋肉が伸びなかったり痛みを感じたりしますか?
頸を左右に倒したときにどちらかが曲がりにくく、頸の横の筋肉に痛みを感じますか?
左右に頸をひねったときにはどうでしょう?どこに痛みや違和感があるでしょう?
痛みや違和感は体からのシグナルです。
その場所によってお灸をするべきツボが決まってきます。
顎関節症に手足のツボへのお灸
私はアゴや頸の痛いところではなく、一見関係なさそうですが手足のツボにお灸をすることをお勧めします。
痛いところというのは、体の中で何らかの理由で炎症が起きているのです。
東洋医学には経絡といって、気の流れるルートがあります。
同じ経絡(気の流れるルート)上のツボを刺激することで、痛みを感じているその場所を直接刺激しなくても症状を軽減させることができます。
ツボの探し方
ご自分でツボを探すときには、触ってみてペコっと凹んだ感じがしたり、押してみて妙に気持ちが良かったり痛かったりするところでほぼ正解です。
プロの鍼灸師はツボをピンポイントで探っていきますが、ご自分で施灸する場合は、気軽に大雑把に「この辺かな?」といったくらいでツボを探していただいて十分です。
お灸の魅力はその気軽さにあると私は思います。
顎の関節が痛くて口が開けられない方、あるいはそこまでひどくはないけれどアゴを動かすとポキポキ音がするという軽度の方、いずれにせよ、首を動かしたときにどこに一番痛みや違和感があるかによってツボを決めていきます。
たぶん痛みを感じるポイントは複数あると思いますが、まずは一番痛いところにアプローチしましょう。
一番痛いところが軽減すると、あんがい他の場所も気にならなくなったりすることもありますし、また反対に他のもっと筋肉の深い場所に問題があったことが判ったりします。
より根本的な問題が明るみに出てきたら、そこに効果のあるツボを取れば良いわけですね。
お灸のやり方
一般的には、アゴの痛みのある側の手足のツボにお灸をすれば結構ですが、ここはあえて、初めに左右両側の同じツボに施灸してみてください。
熱さの感じ方に左右差があることに驚かれるかと思います。
「左は熱く感じるのに、右は全く熱さを感じない」といった具合に。
先にも書いたように顎関節症の方は根本的に、全身の左右のアンバランスの問題を抱えていますので、お灸の感じ方も左右差があったりするものです。
当然のように、熱さを感じない方のツボに、適度に熱さを感じるまでお灸をしてください。(熱さに我慢するほどは避けてくださいね。やけどします。)
すると、頚を動かしたときの痛みや違和感が、少し軽減していると思います。
一度に完璧を目指さないでくださいね。
3割くらいの改善でOKです。
お灸はやった直後より、ジワジワと時間をかけてその効果が出てくるのです。
毎日していただければなによりですが、3日に一度の施灸でも効果は期待できます。(詳しくはヒートショックプロテイン理論をご参考に)
顎関節症に効果があるツボの紹介
では、前置きが長くなってしまいました、タイプ別のツボの紹介を始めたいと思います。
〇印のついているツボを優先して、なかなか効果が感じられないときに、あるいは時間に余裕があるときに△印のツボを補助的に使ってください。
もちろん△印のほうが効果あると感じられる方は△印だけでも結構です。
大事なのはご自分の心地よいという感覚を信じることです。
1、耳たぶの下あたりに痛みを感じる場合
私見ですが、対人ストレスで心身ともに疲れてしまったときに、この反応が多いかな?
〇陽池
〈場所〉手関節後面横紋のほぼ中央
△内関
〈場所〉手のひら側の手首のしわの中央から肘に向かって指幅三本分のところ
2、後頭部と頸の付け根に痛みを感じる場合
私見ですが、腰が丸まって硬く、前屈も後屈もできない。
睡眠不足か寝ていても浅いので疲れが取れていない。
自律神経が乱れている。
歯列矯正をした人にも多く見られるかな?
〇京骨
〈場所〉足の小指側の側面にある、第五中足骨(ちゅうそくこつ)のかかとよりの骨端。
足の外側のへりをくるぶしから小指に向かっていくと、高く隆起した骨に突き当たり、その部位の凹部分にあります。
△太谿
〈場所〉内踝とアキレスけんの間の間凹部
3、前頸部に痛みや筋肉が伸びない感じがする場合
私見ですが、例えば鍵をかけたのに確認しないと気が済まないといったように、思考がまとまらない心理状態の人が多いかな? 消化器系の不調が見られます。
〇衝陽
〈場所〉足の甲の中央あたりで、 2番目と3番目の指の間を上がっていくと凹んだところ
△太白
〈場所〉足の親指付け根の大きな関節を超えてすぐの凹んだところ
4、側頭部や肩のコリを感じる場合
私見ですが、元気な時はよく気が付くし精力的に仕事をしたりしますが、疲れてしまうとガクッと落ちて何もする気がなくなるアップダウンの大きい人が多いかな?
〇足臨泣
〈場所〉足の甲で薬指と小指の間を上がって凹んだところ
△太衝
〈場所〉足の甲で親指と人差し指の間を上がって凹んだところ
5、頸の横の大きな筋肉(胸鎖乳突筋)の真ん中あたりに痛みや違和感がある場合
私見ですが、リラックスが下手な方が多いかな?
緊張するとこぶしを握っていたり、歯をかみしめていたり。
7の力で出来ることに10のエネルギーを注いでいたのでは疲れちゃいますよね。
〇合谷
〈場所〉手の甲側、親指と人差し指の間で、やや人差し指よりの凹んだところ
△列缺
〈場所〉手首を曲げた時にできる手のひら側の横紋親指の付け根から、指3本分上がって凹んだところ
6、頸の横の大きな筋肉の後ろ(背中)側に痛みや違和感がある場合
私見ですが、こわばった感じの人が多いかな?トレーニングに励んで、バランス良く筋肉がつけばいいのだけれど、かえってアンバランスになってしまう人もいますよね。
〇後谿
〈場所〉手の小指の付け根、感情線の始まるあたりの凹んだところ
△腕骨
〈場所〉後谿のツボより手首に向かって下がっていき、手首の手前の凹んだところ